2010年 HARMONY PRESSのバックナンバーです。
2010年11月27日 土曜日
今年も、残すところ、あとひと月。そろそろ2010年の〆です。当院が月刊で発行しているHARMONY PRESS
も、おかげさまで、今年最終の号を完成させました。今年は連載のSchool of Vetでは「麻酔」というかなり専門的な分野をとりあげてみました。毎回、ご紹介できる内容が少量でディープなので、今回、この場を使って再度ご紹介しようと思います。
HARMONY PRESS 2010 JANUARYから
新年を迎え、このコーナーも新たなテーマを掲げることにしました。今回から「麻酔」について勉強しようと思います。
麻酔と言うと、人医療はもとより、獣医療でも欠かくことのできない技術です。皆さんも、何らかの麻酔の経験をお持ちではないでしょうか。歯医者さんでの虫歯の治療にしても麻酔の技術とは素晴らしいものだと思います。しかし、医学の歴史は古くても、麻酔技術が確立されたのは、ここ二百年の事です。遥か古代と言える時代に抜歯や中には開頭手術をしていた記録がありますから、その当時の患者はとてつもない痛みに耐えていたことでしょう。近代麻酔の黎明期として有名な人物は、日本の華岡青洲という医師です。華岡青洲は江戸時代中頃の外科医で、なんと、世界ではじめて乳癌の外科手術をおこなった医師です。記録によると、全身麻酔薬を開発するにあたって、まず動物(おそらく猫)で試験をし、人体実験を申出た実母と妻に用い効果や安全性を確認し、ついに乳癌摘出に用いるという偉業を為したとされています。それから二百有余年経った現在、麻酔はなくてはならない存在です。獣医療でも、やはり、痛みは生命の質をおびやかします。また、人間が強制的に動物の行動を制御する上でも麻酔を用いる事もあります。一方で、麻酔はまだまだわからない部分もたくさんあります。完全に安全な麻酔は存在しないとされています。程度の差こそあれ、危険な技術であることは、華岡青洲の頃と変わりはないのです。それは、麻酔をかけられた人物が、その生命維持を全く自分以外の者(物)でコントロールされるからでしょう。逆に、麻酔施術者は生命維持の全ての責任を負うことになるのです。麻酔に熟知し、緊急時の対応もマスターする。麻酔という危険行為をすばらしい医療、獣医療技術とするためのもっとも基本的なことです。
以下、続く。。。。