ブログ - ハーモニー通信

特集! 今、学校で!

2008年8月23日 土曜日

私たち、動物病院獣医師の地域社会への貢献の場の一つが、学校動物への飼育支援です。
                                                                                                      
 今、学校で飼育されている動物たちへの支援活動が様々な規模で、国内の色々な地域で繰り広げられています。私の所属する愛知県獣医師会でも昨年度から、県下の小学校向けに、学校飼育動物のマニュアルを作製し配布致しました。また、ふれあい教室という、実際にその小学校で飼育している動物を用いての授業を実施しています。なぜ、そのような取り組みが盛んに行われる様になってきたのでしょうか?二つの理由があると思います。
                                                   
一つ目の理由。
 それは、数年前からの犯罪加害者の低年齢化にみられるような、社会人としての歪みを生じさせない。小学校などで飼育されている動物達はそのためにたいへん良い教材に成り得ます。
 学校動物は生きた教材です。命という、失ったら取り戻せない、そして、私たちも同様に持っているものです。私たちの存在の全ての根本です。そして、学校動物は私たちよりも小さく、そして弱い存在なのです。この弱く小さな生物を健康的に育て、生徒全員に親しませることは、大変に難しいことです。しかし、ペットとは異なり、学校動物は生徒全員が協力して飼育することができます。誰か特定の生徒や教職員に任せるのではなく、全員が何かしら担うことで飼育が能動的になり、且つ、教育的効果は目覚ましいものになります。私たちよりも弱い立場、そして意思の疎通が困難な立場のものへの思いやりを育むことが出来ます。そして、命というものがどんなものなのかを感じる能力を養うことが出来ます。さらに、学校全体で取り組むことで、協力してことを為す喜びを学ぶこと出来ます。
                                                   
二つ目の理由。
 一方で、学校で飼育されている動物が、適切な飼育方法で飼育されていないという現実もあるのです。全ての学校ではありませんが、生きた教材としての学校動物が不衛生に飼育されているのです。もし、そのような状況を生徒が毎日目にしているとすると、生徒はどのような感覚を持つでしょう。私たち獣医師は以前から危惧しておりましたし、先輩獣医師にはすでに支援活動をボランティアで行っていらっしゃる方もおられます。しかし、個人がボランティアで行う活動には限界があります。
 私たち獣医師は動物に対して唯一国家資格を与えられています。その私たち獣医師が、現在の学校飼育動物に関して学校の先生方と協力して飼育支援活動を行うことが教育行政に正しく組み込まれる事こそ大変大きな意味を持つ事となるのです。
                                                   
当院のある小牧市は、幸いにも愛知県内で学校飼育動物の支援体制が行き届いている自治体です。このような自治体が県下に増えていく様に私たち愛知県獣医師会は活動しています。今回から、このコーナーで学校飼育動物への支援活動を少し紹介してゆきたいと思います。お読みいただく飼主さんの中には、小学校との結びつきが無い方も多いかと思います。ですが、皆さんが学ばれていた小学校のことを思い出しながらお読みいただければ幸いです。またお子さんやおまごさんがいらっしゃる飼主さんは、お子さん、おまごさんの通われている小学校のことをお考えいただきながらお読みいただければと思います。
また、幸いにも、学校教育に携わっておられる先生方でご興味やご意見をお持ちになられた方がいらっしゃいましたら、是非当院へご連絡いただければと思います。
                                                   
 さて、我が国の小学校で動物が飼育され始めたのはいつ頃かご存知でしょうか?戦後の民主主義教育からだ、と思われる方も多いかと思いますが、明治時代の小学校ですでに動物を飼育していた記録があります。私はこの話を聞いたとき、たいへん驚きました。その時の先生はいったいどんな思いで生徒に動物とふれさせたのでしょう。また、学校に動物がやってきたとき、生徒はいったいどんな表情で動物を迎えたのでしょう。
 いつの時代の子供達も動物には強い関心を持つ様です。それは子供が成長してゆく上でごく当たり前の反応なのです。そしてその関心が発達し、さらに命をいつくしむことができるようになる。これが動物を飼育することの真髄であろうと思います。
 ところが、動物を飼育すること、このことがストレートに命をいつくしむことに繋がっているかというと、どうも完全にそうとは言い切れないようです。それは動物を飼育することが個人の所有欲の顕示に陥りやすいからです。人間には物を所有したい、あるいは支配したいという欲望があります。子供の成長過程でもその欲望は発達してゆきます。しかし、競い、争うことで自分だけ優位な立場になる、あるいは、生き残ることは良いことではありません。他者を思いやり、弱者をいたわる心も育ませなくては成りません。個人が動物を飼育する、いわゆるペットを飼うということを厳しい目で見ると、自分だけの世界をより築きやすい。そんなもろさもあるようです。
 ではなぜ、学校か。あるいは、学校で飼育する動物はペットかという点に目を向けてみましょう。
 多くの生徒に一律平等に教育を受けさせる場、学校、ここで動物を飼育することは、他者を思いやる心を育むことに大変重要な場となります。単に個人が動物を飼育することだけならば、いわゆるペットとして命をいつくしむ心を育てることは出来ます。しかし、学校ではさらに、クラスメイト、あるいは上級生、下級生、そして先生など多くの人が協力、協調して動物を飼育します。協力、協調の心は個人レベルでは育つことは難しいです。皆で飼育をすることで、自分以外の者への思いやりが自然に育まれることでしょう。