ブログ - ハーモニー通信

HARMONY PRESS 連載バックナンバー(4)

2010年12月6日 月曜日

School of Vet 「麻酔」の第4回です。
                                                                                                      
 そもそも、麻酔とはいったいどんなものか。これについて、今回お話したいと思います。麻酔は痛みを感じさせない。体を動かせない状態にする。この2点が作用になるわけですが、麻酔は手段であって、目的ではありません。言ってみれば、自動車の運転のようなのかもしれません。(私のように自動車の運転そのものが目的の人は異なる感じ方かもしれませんが、)多くは自動車の運転は手段であるはずです。目的地までを人力よりも速く、大量に、安全に移動させるための手段です。麻酔も、麻酔そのものは手段であって、それは、痛みを伴う治療を可能とさせる手段なのです。さて、ここで、麻酔により抑制される「痛み」というものについて一言。痛みは、本能的な生体防御のシステムの一部とも言われています。生体は常に生体内の環境を一定に維持するための複雑な仕組みを持っています。それを「恒常性の維持」と言います。免疫の仕組みもそうですし、鳥類以上の脊椎動物は体温を維持する仕組みもあり、それも恒常性維持システムの一つでしょう。痛みというのは、恒常性の維持という点からみると、生体内の異常を伝えるために生体自体が発する警告信号であり、生命維持のためのごく基本的な機能と言えるでしょう。その痛みを感じさせないような手段である麻酔は、恒常性の維持から考えると、生命のごく基本的な仕組みにまで抵触する手段と言えそうです。言い換えると、麻酔は痛みを感じさせないようにするために生命維持の仕組みを調整しつつ行なう治療手段なのです。ここまで書くと、麻酔は非常に危険な手段であることがわかります。しかし、その代償として得られる事は、病気や怪我からの回復、さらに社会的にも健全で健康な生活であり、麻酔なしでは決して得られない結果なのだと言う事をしっかり認識していただく必要があります。そして、麻酔の危険性を埋め合わせるのは、専門的な知識と豊富な経験のある獣医師、動物看護師の適切な手技である事は言うまでもありません。
                                                   
以下続きます。。。